ホワイトカラーとブルーカラーの二極化が進むネットの未来

パソナテックが開催したネットの未来を語るセミナー『未来×チェンジ×ブログ』に参加してきた。シリコンバレー経営コンサルタント渡辺千賀氏のブログに「ITはもう終わりとか言う人がいるが、ネットはまさにこれからが収穫期。思い切り景気がよい話をたくさんしたいと思います。」と書かれていたのを拝見したのがきっかけである。

結論から言えば、渡辺千賀氏の講演は、少々、期待はずれ。ネットの未来に対して、独自の分析に基づいた明るい未来についてのストーリーが聞けるものと期待していたものの、ネットそのものの未来について語るというよりは、要するに「ネットの時代は、個人にチャンスが開かれる時代。シリコンバレーではこんなに成功している人たちがゴロゴロいる。なぜ暗い日本でうじうじしているのか?さっさとアメリカに来たらどうか?」といった内容の話であった。想定している聴衆は二〇代の若年層だったようだし、昨今の暗い話が多いなか意識的にそうされたのかも知れないが、少々、軽過ぎる印象を持ってしまった。

渡辺氏は、ネットの果たす役割の時代的な変遷を(1)追加的機能の提供(2)リアルなビジネスの置き換え(3)社会構造・人間の行動の変革、と整理した上で、現在は(2)から(3)への過渡的にあるという。無論、トピックスとしては(3)社会構造・人間の行動の変革 がメインで、LinkedIn や Twitter といったソーシャル・サービスで仕事を獲得する人が増えているという話やiPhoneプラットフォームでのゲーム開発者の成功話を例にとり、個人が新しいチャンスに出会える可能性が高まっているというプラスの話が出ていたが、これ自体は特段目新しい話ではない。

むしろ、私がショックを受けたのは(3)社会構造・人間の行動の変革 で紹介された「新しい働き方の出現」である。どうやら、シリコンバレーでは、人間を原材料や部品のようにシステムに組み込むような凄まじいビジネスモデルが出てきているようなのだ。

紹介されたのは、声のオークション会社(Voice123:声優さんの声を、直接、オークションにかけるシステム)や、バーチャル・コールセンター会社(LiveOps:自宅待機させたオペレーターの成績(成約率や対応時間の短さ)を監視し、成績の良いオペレーターに優先して仕事を回す)の2社。人という商材を徹底して機械的・冷徹に扱うあたり、いかにもアメリカ的という感じで、こうした発想は、悪く言えば会社が人材を囲い込み、よく言えば人を通じた出会いや「摺り合わせ」を重視する日本からは出てこないだろう。

しかし、この「新しい働き方の出現」は、明るいネットの未来の話なのだろうか。むしろ、渡辺氏も指摘していた通り、「ブルーカラーとホワイトカラーがますます二極化」していくことを象徴的に示すような話だ。「25人で年間100億円を売り上げる」ようなホワイトカラーと、そうした人々の発明したメカに部品として組み込まれ、ネットの背後に隠れて顔の見えなくなっていくブルーカラーたちと、二分化していくのがネットの未来なのかも知れない。願わくは、ホワイトカラー側に回りたいものだが、そのためには、「スタンフォードMBAを取り、まだ外見が若いうちにシリコンバレーで仕事を見つけるか会社をおこす」しかないようだ。

個人的に考えるのは、人間が、受動的に機械に組み込まれれるのではなく、むしろ、能動的に、自らの創造性や専門性を、適切な場所で公開し、世の中に関わっていけるような仕組みの方が、より多くの「ブルーカラー」を生み出さずにすみ、人間を幸せにしていくのではないかという事だ。具体的な例としては、先端技術分野における「オープンイノベーション」の潮流がある。これは、企業が自社内で閉じた研究開発体制のみに頼らず、グローバルな規模でオープンに知を結集してイノベーションを起こすという最近の技術開発の新しい動きである。例えばイノセンティブ社(Innocentive)や、ナインシグマ社(NineSigma)は、研究開発上の課題を抱える企業と、技術提案を考える研究者をインターネット上でマッチングさせるビジネスを展開している。技術提案を考える研究者は、自分のホームページ、ブログ、SNS掲示板でのディスカッションなど、自分の能力を公開する場所を、ますますネットに求めるようになるだろう。そうした「自分の資産、自分の分身」としての機能をますます強力に担うのが、明るい未来のネットではないだろうか。Linuxに代表されるオープンソースのような動きも、それに関わる人間が、能動的に世の中に関わっていく仕組みであり、人間が自分の「尊厳」を高めるような、明るい未来につながる仕組みだと思う。


なお参考までだが、渡辺氏の話のうち、(2)リアルなビジネスの置き換え ではレストラン予約システム(OpenTable)やオンラインDVDレンタル(Netflix)、ネットワーク型コンシューマデバイスEye-Fi, Chumby, Flip Video) を紹介していた。普段、ウェブでウォッチしていれば知りうるものばかりで、むしろ、日本にいても、こうした企業の情報が伝わってきていること、情報の伝搬の速さに驚いた。

それにしても、このセミナー、技術系人材派遣をおこなうパソナテック社がスポンサーなのだが、本セミナーの目的が今もって不明である。セミナーのタイトル「未来×チェンジ×ブログ」からすれば、同社が新規に立ち上げたブログ・サービスを宣伝するための企画だったのかも知れないが、登壇者は、技術系派遣というキャリアからは対極にある人ばかりで、何のメッセージを伝えたかったのかがわからなかった。メインゲストたる渡辺千賀氏に至っては、「こんなところで話を聞きにきている暇があるぐらいだったら、アメリカにきてiPhoneのアプリでも開発して金儲けするほうがまし」等とおっしゃる始末で、あながち冗談ではなかったのではないか。確かに停滞がひどく未来の暗い日本で、二〇代の若い人が、今更、IT系技術派遣社員として新規に働き始めるよりは、そちらの方が遙かによさそうだというのは納得できる話ではあったが。